横浜地方裁判所 昭和56年(ワ)2812号 判決 1984年4月16日
原告
遠藤典子
ほか二名
被告
菅原満
ほか三名
主文
1 被告らは各自原告遠藤典子に対し金二九八八万四五九三円、原告森脇エレン輝子に対し金三三万七六六四円、原告大河内リビ正恵に対し金二二八万六四四八円及び原告遠藤典子分に対する昭和五二年八月二五日から、その余の原告分に対する、被告菅原満、同有限会社誠和運輸及び同有限会社西町運送についていずれも昭和五六年一二月一八日から、被告中村謙二について同年同月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 原告らのその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを三分し、その二を被告らの、その余を原告らの各負担とする。
4 この判決は主文第一項に限り仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求める裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは各自原告遠藤典子に対し四二八三万二八九九円、原告森脇エレン輝子に対し二〇五万三七四〇円、原告大河内リビ正恵に対し五八一万七八三八円ならびに原告遠藤典子分のうち三八四一万四二三九円に対する昭和五二年八月二五日から、同原告分のうちその余の部分及びその余の原告分に対する訴状送達の日の翌日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 仮執行の宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 交通事故の発生
昭和五二年八月二五日午前二時ころ、被告菅原満運転の普通乗用自動車(横浜五七さ九六五七)が、横浜市鶴見区鶴見町一二三四番地先交差点付近を走行中、前方を被告中村謙二運転の大型貨物自動車(埼玉一一い一八〇五)が対向し、路外へ出るために右折しようとしたため、その左後輪に衝突し、普通乗用自動車に同乗していた原告遠藤典子が負傷した。
2 責任原因
(一) 被告菅原満
被告菅原満は、前方を注視して運転しなかつたため、大型貨物自動車の発見が遅れ、衝突事故を起こしたから過失がある。
(二) 被告中村謙二
被告中村謙二は、路外へ出るため右折する際は、直進車の進行を妨げてはならないのに、普通乗用自動車と安全に行き交うことができるものと安易に考えて対向車線に進出し、よつて衝突事故を起こしたから過失がある。
(三) 被告有限会社誠和運輸
被告有限会社誠和運輸(事故当時の商号は末広梱包運送有限会社)は事故当時普通貨物自動車の保有者であつた。
(四) 被告有限会社西町運送
被告有限会社西町運送は、被告有限会社誠和運輸の依頼を受けて、自己の使用人である被告中村謙二をして、普通貨物自動車を運転させた。
3 原告遠藤典子の損害
(一) 治療費 四三六万〇〇一四円
(二) 看護費用 八万八一一〇円
(三) 入院雑費 二〇万七六〇〇円
(四) 通院交通費 二九万〇二〇〇円
(五) 寝具借費 一万一九五〇円
(六) 休業損害 六六六万三四九一円
(七) 逸失利益 一七四七万八〇五二円
(八) 将来看護費用 五六一万〇九二六円
(九) 慰藉料 一四〇〇万円
(一〇) 弁護士費用 五〇万円
(一一) 弁済 五八七万七四四四円
4 原告森脇エレン輝子の損害
(一) 付添看護費 二六万四六六〇円
(二) 付添のための航空運賃 二八万九〇八〇円
(三) 慰藉料 一五〇万円
5 原告大河内リビ正恵の損害
(一) 付添看護費 四八一万七八三八円
(二) 慰藉料 一〇〇万円
6 結論
よつて被告らに対し、原告遠藤典子は四二八三万二八九九円、原告森脇エレン輝子は二〇五万三七四〇円、原告大河内リビ正恵は五八一万七八三八円ならびに原告遠藤典子分のうち三八四一万四二三九円に対する昭和五二年八月二五日から、同原告分のうちその余の部分及びその余の原告分に対する訴状送達の日の翌日(被告菅原満、同有限会社誠和運輸及び同有限会社西町運送についていずれも昭和五六年一二月一八日、被告中村謙二について同年同月一九日)から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
二 請求原因に対する認否
1 被告菅原満
請求原因1及び2(一)の各事実は認め、その余の請求原因事実は知らない。
2 その余の被告
請求原因1の事実は認め、同2(二)の、被告中村謙二に過失があつたとの主張は否認する。同2(三)の事実、同2(四)のうち、被告有限会社西町運送が被告有限会社誠和運輸の依頼を受けて、使用人である被告中村謙二を派遣したことは認める。その余の請求原因事実は知らない。弁済額は五九九万四〇七二円である。
三 被告中村謙二、同有限会社誠和運輸及び同西町運送の抗弁
1 被告菅原満は、事故当時、飲酒、疲労のため、居眠りをし、前方不注視の状態となつて、大型貨物自動車の発見が遅れて衝突事故となつたが、原告遠藤典子は、被告がさような状態になることを知りながら、無償で被告菅原満運転の普通乗用自動車に同乗していたのであるから、同被告の過失は、いわゆる被害者側の過失として斟酌されるべきである。
2 被告菅原満が飲酒のうえ運転するのを承知でこれに同乗し、運転をやめさせようとしなかつたのは、原告遠藤典子の飲酒運転幇助に準ずる過失である。
四 抗弁に対する認否
抗弁事実は否認する。
第三証拠
証拠に関わる弁論は書証目録、証人等目録に記載のとおりであるからここに引用する。
理由
一 請求原因1の事実は当事者間に争いがない。
二 各被告の責任原因について判断する。
1 請求原因2(一)の事実は当事者間に争いがない。
2 当時者間に争いがない請求原因1の事実によれば、被告中村謙二には、右折にあたり、対向車との接触の可能性について判断を誤つた過失があると認められる。
もつとも、いずれも成立に争いがない甲第六ないし第一〇号証、同第一七ないし第二〇号証を総合すると、事故現場道路は車道幅員が一四メートル、片側二車線の道路で、前後の見通しは良く、道路面は照明により障害物の識別に困難はなかつたこと、大型貨物自動車は車長一〇・四九メートルあり、路外へ右折のため、一旦中央線を越え前部を対向第二車線に進出させて機会をまち、前方に被告菅原満運転の普通乗用自動車を発見したが、接触することなく行き違えると判断して徐々に進行したところ、普通乗用自動車の進行は思いのほか速く、一瞬加速したが間に合わなかつたこと、被告菅原満は、品川区南品川に自ら経営するスナツク「ほん」で客からすすめられて飲酒し、事故時酒気帯びの状態であり、かつ疲労した状態であつたこと、衝突直前まで大型貨物自動車の存在に気づいていなかつたこと、原告遠藤典子はスナツク「ほん」でパートタイマーとして働き、被告菅原満が飲酒のうえで運転するのを知つていたことが認められこれを覆えすに足る証拠はない。
そうすると、被告菅原満の前方不注視の過失は著しく、状況から推して、飲酒、疲労の影響で注意力が散慢になつていたものと判断せざるを得ないが、原告遠藤典子は、同被告の運転開始前の状態を知り得る立場にあつたのであるから、運転中同被告が注意を集中できなくなることも予測し得たはずであり、被告菅原満の過失の原因を承知しながら同乗したものとして、これを損害額算定にあたり考慮すべきである。
3 請求原因2(三)の事実は当事者間に争いがない。
4 被告有限会社西町運送が、被告有限会社誠和運輸の依頼を受けて、使用人である被告中村謙二を派遣したことは当事者間に争いがなく、被告両会社が運送業を営んでいることは弁論の全趣旨により明らかであり、これらの事実によれば、本件事故は、被告中村謙二が被告有限会社西町運送の事業の執行について起こしたものと認められる。
三 原告遠藤典子の損害について判断する。
1 治療費 四三一万二七五二円
いずれも成立に争いがない甲第三二ないし第三六号証、同第三八ないし第四九号証、同第五一ないし第五五号証、同第五七ないし第六〇号証、同第六二ないし第七九号証、同第八一ないし第八四号証、同第八六、第八七、第八八号証、同第九八、第九九、第一〇二、第一〇三号証、同第一二五号証、同第一四〇ないし第一五六号証、同第一六九号証、同第一七七ないし第一八二号証によれば次の事実が認められ、これに反する証拠はない。
(一) 原告遠藤典子は、本件交通事故により、脳挫傷、頭蓋底骨骨折、頭部挫傷、両前額鼻背左頬下頤部多発性切挫創、左手挫傷、両膝関節開放性切挫創、右下腿切創、左角膜損傷、両外転神経麻痺の傷害を負つた。
(二) 原告遠藤典子は右傷害の治療のため、昭和五二年八月二五日から同年九月一日まで橋爪病院に入院し、同年同月同日東京労災病院に転医し、昭和五六年三月三〇日までの間、少なくとも三一五日の入院と一三日の通院をし、この間昭和五三年六月一日に関東逓信病院の治療を受け、昭和五三年八月一一日から昭和五四年四月二六日までの間五日間東邦大学付属大橋病院に通院し、昭和五三年八月二一日から昭和五四年五月七日までの間少なくとも八日脇眼科医院に通院し、昭和五四年二月一三日から同年一一月七日の間一八日浜歯科医院に通院し、昭和五三年三月一六日から昭和五五年三月三一日までの間少なくとも三一六日紺野物理治療院及び中鍼灸マツサージ室に通い施療を受けた。
(三) 右の入通院治療の結果、原告の症状は、左側不全片麻痺、異常感覚、左側顔面神経麻痺、両側外転神経麻痺、左側聴神経麻痺、両側舌下神経麻痺、脳波異常、徐波多、律動不整、CT所見上左右前頭部脳挫滅、軽度水頭症残留、軽度知能低下、左難聴、右外転は中央まで、左眼外転は或程度可、中央で複視、眼精疲労、顔面醜状痕(額部に縦に二条四五ミリメートルと七五ミリメートルの、鼻部に縦に一条二八ミリメートルの、他に口周辺に六条の各切創痕)を残し、昭和五六年三月三〇日固定した。
(四) 原告遠藤典子は、治療のために、橋爪病院について六九万九一八〇円、東京労災病院について少なくとも一四八万四一一四円、関東逓信病院について五〇〇〇円、東邦大学附属大橋病院について四二〇〇円、脇眼科医院について九六九〇円、石川薬局について一万二〇一八円、浜歯科医院について七〇万〇五五〇円、紺野物理治療院及び中鍼灸マツサージ室について一三九万八〇〇〇円を要した。
(五) 以上により原告遠藤典子は本件事故により治療費分として四三一万二七五二円の損害を蒙つたものと認められる。
2 看護費 八万八一一〇円
いずれも成立に争いがない甲第一五九号証、同第一六〇号証によれば、原告遠藤典子は、橋爪病院に入院中の八日間は職業付添人に看護を依頼せざるを得ず、これに八万八一一〇円を要したことが認められる。
3 入院雑費 一九万三二〇〇円
入院に関し一日当り少なくとも六〇〇円の雑費を要することは経験則上明らかであり、前記のとおり原告遠藤典子は三二二日入院したことが認められるから、この間要した雑費は一九万三二〇〇円と計算される。
4 通院交通費 二三万四六四〇円
原告ら三名各本人尋問の結果によれば、原告遠藤典子は、東京労災病院(大田区大森所在)、紺野物理治療院(横浜市中区所在)、中鍼灸マツサージ室(同上)、脇眼科医院(横浜市港北区日吉本町所在)、浜歯科医院(横浜市港北区篠原北二丁目所在)に通院中必ず付添いを要し、前二者については電車、バスを、後二者についてはタクシーを利用したことが認められ、同原告肩書住所地から東京労災病院までは大人一人片道三八〇円、また紺野物理治療院及び中鍼灸マツサージ室までは片道一七〇円程度を要することは経験則上明らかであり、これに前記通院日数を乗ずると合計二三万四六四〇円となるが、後二者についてはタクシー利用の必要性の有無が明らかでないから認められない。
また原告は甲第一七三号証の一ないし四二及び同第一七五号証の一ないし五九(いずれも成立に争いがない。)を提出し、高速道路利用料金合計四万二八〇〇円の支払いのなされたことが窺われるが、本件事故による損害との関わりが十分明らかでない。
5 寝具借賃 一万〇七五〇円
いずれも成立に争いがない甲第一二七ないし第一三九号証によれば、原告遠藤典子は、東京労災病院に入院中やむを得ず寝具を他から借りたことがあり、これに一万〇七五〇円を要したことが認められる。
6 休業損害 六六六万三四九一円
いずれも成立に争いがない甲第一一号証、第一五七号証によれば、原告遠藤典子は、自宅で華道を教え、かたわら昭和五二年一月から、品川区南品川に所在する被告菅原満経営のスナツク「ほん」に午後八時から午後一二時まで稼働し、一日当り四〇〇〇円(他に交通費名目で五〇〇円が支給されている。)を得、同年五月には二八日働いて一一万二〇〇〇円、同年六月には二九日働いて一一万六〇〇〇円、同年七月には二九日働いて一一万六〇〇〇円受け取つたこと、事故から昭和五六年三月三〇日までは全く稼働し得なかつたことが認められる。
この事業をもとに原告遠藤典子の休業損害を計算するのに、先の三箇月分の収入合計三四万四〇〇〇円を暦日で除すれば一日当り三七三九円となるが、右の収入を得るに要する時間等を考慮し、少なくともこれを一・五倍したものを以て計算の基礎とするのが相当で、更に休業期間一三一四日を乗すれば、原告請求の六六六万三四九一円を超えることは明らかである。
7 逸失利益 一三一九万三九二四円
成立に争いがない甲第一一号証によれば、原告遠藤典子は、昭和三年一〇月八日生れであることが認められる。このことと、休業損害算定の基礎とした金額がスナツク手伝い(ウエイトレス)による収入に拠つたものであることとを考えると、症状固定後の将来にわたる得べかりし利益喪失額の算定についてまでこれを使用するのは相当でなく、症状固定後は、むしろ平均賃金を用いるべきものである。そして、原告遠藤典子は、前記の後遺症によりその稼働能力の六五パーセントを喪失したと認めるのが相当である。
そこで昭和五六年三月三一日から原告遠藤典子が六七歳に達する日の属する年度の末まで一五年間について、昭和五六年度賃金センサス中の女子平均賃金(年一九五万五六〇〇円)の六五パーセントを、年五分の割合によるライプニツツ方式を用いて中間利息を控除して計算すると一三一九万三九二四円となる。
8 将来看護費用 五五二万六四六五円
原告遠藤典子本人尋問の結果によれば、同原告は、台所仕事は極めて緩慢に限られた種類の作業をなしうる程度であり、刃物の使用には危険感を伴うことが認められ、これと前記の後遺症の内容とを考慮すると、同原告には平生或程度周囲の看護、援助が必要であると認められ、これを金銭で見積る場合一日一〇〇〇円とするのが相当である。
そこで、同原告は昭和五六年度簡易生命表による同年齢の者の平均余命の範囲内である二九年間生存するものと推定すべく、中間利息の控除につき年五分の割合によるライプニツツ方式を用いて計算すると五五二万六四六五円となる。
9 慰藉料 一四〇〇万円
前記の治療経過、後遺症により原告遠藤典子が受けた精神的苦痛を慰藉するには少なくとも一四〇〇万円を要すると認める。
10 弁護士費用 五〇万円
原告遠藤典子が本訴の追行を弁護士に委任したことは記録上明らかで、事案の内容等から、本件事故と相当因果関係にある弁護士費用に該る損害は五〇万円を下ることがないものと認める。
11 過失相殺
前記のとおり、被告菅原満の過失は著しく、この点を原告遠藤典子の損害額について過失相殺として考慮すべきものである。もつとも被告菅原満本人尋問の結果によれば、帰路を自動車で送ることは勤務の条件には入つていなかつたものの、事故のあつた年の六月か七月ころからは殆んど毎日自動車で自宅まで送つていたこと、午後一二時までが約束の勤務時間であつたが、客がいる場合には更におそくまで働かせることがあつたことが認められる。そこでこれら事情を考慮し、前記1ないし9の合計額の二割を減ずるにとどめることとする。
そして原告遠藤典子と被告菅原満との自動車利用関係が右のとおりであり、先に認めたとおり交通費名目で別途金員が支給されていた(被告菅原満本人の供述中これに反する部分は信用しない。)ことを考慮すると、両者間においても過失相殺に準じた措置をすることが公平に適うから、被告菅原満に対する関係においても損害額の二割を減ずるものとする。
12 弁済 五九九万四〇七二円
いずれも成立に争いがない甲第二八号証の一ないし一四によれば、原告遠藤典子に対し既に五九九万四〇七二円が弁済されていることが認められる。
13 結論 二九八八万四五九三円
以上により、原告遠藤典子の損害のうち填補を得ていない部分は二九八八万四五九三円となる。
四 原告森脇エレン耀子の損害について判断する。
1 付添看護費 一三万三〇〇〇円
原告森脇エレン耀子本人尋問の結果によれば、同女は原告遠藤典子の長女であり、原告遠藤典子が入院中の昭和五二年九月一六日から同年一〇月二三日まで三八日間付添看護をしたこと、当時付添看護が必要な状態であつたことが認められる。
そこでこれによる損害を一日当り三五〇〇円に換算して計算すると一三万三〇〇〇円となる。
同原告の供述中には、同原告が当時合衆国内の勤務先を休みそのため一二〇三ドル相当の賃金を失つたとする部分があり、甲第一六三号証にも同趣旨の記載があるが、外ならぬ同女が長期間付添しなくてはならなかつたとの点については証明が十分でないから、これを基礎とすることはできない。
2 運賃 二八万九〇八〇円
原告森脇エレン耀子は、原告遠藤典子が事故に遭い重傷であるとの連絡を受け、当時の住所地である合衆国はカリフオルニア州サンフランシスコ市から飛行機を使用して見舞に訪れ、前記のとおり付添看護をして、帰路も飛行機を使用したこと、往復の運賃に一三一四ドルを要したことが認められ、当時の日本における円ドル交換比は一ドルが二二〇円を下ることがなかつたことは当裁判所に顕著である。
原告遠藤典子、原告大河内リビ正恵各本人尋問の結果及び三1に掲げた各書証によれば、原告遠藤典子は入院当初意識が無い状態で症状も重篤であつたことが認められる。この様な場合に子が親を見舞い、費用を負担することがあるのはやむを得ないところであり、事故と相当因果関係にある損害と認める。
3 慰藉料 認めない。
原告遠藤典子の症状が重く後遺症もあることは前記のとおりであり、よつて生じた原告森脇エレン耀子の心労も理解しうるが、いまだ精神的苦痛を金銭を以て賠償すべき程度に至つているものとは認め難い。
4 結論 三三万七六六四円
1及び2の合計額から、原告遠藤典子について行つたと同率の過失相殺及びこれに準ずる減額をすべきものとして計算すると三三万七六六四円となる。
五 原告大河内リビ正恵の損害について判断する。
1 付添看護費 二八六万〇五二五円
原告大河内リビ正恵本人尋問の結果及びこれにより成立を認める甲第六一号証によれば、同原告は昭和三〇年一〇月一八日に生れた原告遠藤典子の次女であつて、事故当時は在日アメリカ陸軍補給廠に勤務し、年収七四〇八ドルの収入を得ていたところ、原告遠藤典子の付添に専念するため同所を退職したこと、原告遠藤典子には、症状固定まで付添が必要であり、原告大河内リビ正恵は少なくとも昭和五五年九月一五日まで一一一七日のうち原告森脇エレン耀子が付添をした三八日を除く一〇七九日間これに当つたことが認められる。
そこで原告リビ正恵が付添看護によつて蒙つた損害は、入院期間三二二日から三八日を減じた二八四日については七四〇八ドルに二二〇円を乗じた一六二万九七六〇円を三六五日で除した四四六五円を一日当りの損害として一二六万八〇六〇円を得、その余の期間については、一日当り二〇〇〇円と評価するのを相当とし、一五九万〇〇〇〇円を得、合計二八五万八〇六〇円とするのが相当である。
2 慰藉料 認めない。
原告森脇エレン耀子についてと同じ理由で慰藉料の請求は認めない。
3 結論 二二八万六四四八円
1の額から、原告遠藤典子について行つたと同率の過失相殺をすべきものとして計算すると二二八万六四四八円となる。
六 結論
そうすると、原告らの請求は、原告遠藤典子が二九八八万四五九三円、原告森脇エレン耀子が三三万七六六四円、原告大河内リビ正恵が二二八万六四四八円及び原告遠藤典子分に対する不法行為の日である昭和五二年八月二五日から、その余の原告分に対する訴状送達による請求の日の翌日であることが記録上明らかな被告菅原満、同有限会社誠和運輸及び同有限会社西町運送についていずれも昭和五六年一二月一八日、被告中村謙二について同年同月一九日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条、仮執行宣言について同法第一九六条の各規定をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 曽我大三郎)